──それは、直感だった……
(コイツは、俺と同じ種類の人間だ)
だからこそ、試すつもりでこの木刀を振るった。
腕に伝わる軽い痺れは、その直感が確かであることを、俺に告げていた……
「……で、どこで覚えたんだ?」
「?」
放課後、俺は”親睦会”と称して行きつけのラーメン屋に緋勇を誘った。
朝に闘(や)り合った一件を全く気にしていないのか、随分あっさりと承諾の意を返されて拍子抜けしたくらいだ。
店に着いて適当に注文を済ませ、ようやく今の質問に至るワケだが……
「んぁ?ふぁひふぁ(何が)?」
「……あー、喋るのは食ってからで良い……」
食うのか喋るのか決めかねている様子に脱力しつつ、ひらりと手を振って制してやれば、ヤツは小さく頷いて食事を再開した。
……もしかして、ただの勘違いってことは……ねェだろうな……?
俺は少し不安になりながらも意識して≪気≫を探る。
──拳を交わした瞬間に爆発のように膨れ上がった≪気≫も、今は静かに落ち着いていた。
『柔』と『剛』、果たしてどちらが本物の『緋勇龍麻』なのか。
俺は≪気≫を研ぎ澄ます術しか覚えちゃいないが、コイツは違う。
あれ程に強烈に感じた≪気≫の力を、意識して抑え込んでいるのだとしたら……?
……コイツは結構、食わせ者かもしれねェな……
「……やっぱ気に入らねェ」
「ほぇ?」
「──って、お前いつまで食ってるんだよ?!」
「京チャン、ソレ2杯目ヨー」
「何ッ?!つーか”京チャン”って言うな!!」
店主と言い争っている間に、気付けばいつの間にか”龍麻”は箸を止めていた。
遠く、微かに流れてくる音楽に耳を澄ませているようだ……おそらくはバイオリンの音色だろう。
そういえば、先刻店に来る途中ですれ違った女も、バイオリンらしきものを抱えていたような気がするが……
「どーした?」
「いや……いい音色だね」
「んー?俺、こういうの分かんねェ……」
「……そっか」
……俺の中で、何かが動き出すような気がした──
始まりは”興味本位”。
(初出:2007/07/13)