俺が望めば、アイツはきっと"拒まない"だろうことを──俺は知っている。
いや……アイツは俺を"拒めない"。
だって俺は、アイツにとって「唯一」足り得る存在だから……

けれど、俺にとってアイツの存在が「唯一」になることは、決してない。
何故なら俺が、それを望んでは……いないのだから──

『──カルノ。君って案外……純情な質だったんだね』
「ッな……!?」

珍しく考え込んでいたカルノの"中"で、直接頭に響くかのように、ふいに『声』が弾けた。

「テメ……っ、レヴィ!勝手に他人の頭ン中、覗いてんじゃねぇよッ!!」

今やカルノの心の一部となってしまった青年──レヴィは、いつもこんな風に突然語り掛けて来る。
元々彼に対して苦手意識を持っていたカルノにしてみれば、迷惑な事この上ない。

『う~ん、心外だなぁ。僕はただ、君たちのことを心配して"見守っている"だけなのに……』

相変わらず「のほほん」とマイペースなレヴィに対し、カルノの調子は乱されるばかりだ。

「はぁ?!ただでさえ気持ち悪ィのに、何恥ずかしいこと言ってンの?!」

傍から見れば一人で騒いでいるようにしか見えないことも、この際関係はなかった。
今のカルノにとって問題なのは、先程まで考えていた事を"読まれた"という事実……その事に対してカルノはひどく焦っていた。

──自分がイブキに抱く感情……それは、誰にも知られてはいけない感情なのだ。

「……勝手に喰われておいて、いちいち出しゃばって来るな」

レヴィに対して理不尽な事を言っているということは、カルノ自身も理解していた。

『そうだね、ゴメン……』

肉体は失われたが、そうやって語りかけてくる『声』は、生前の、苦笑いするような彼の表情を容易に思い起こさせる。
カルノを、そして勇吹を、まるで我が子のように慈しむ彼は、いつものようにまた、カルノの暴言をただ柔らかく受け止めるだけなのだ。

やがて舌打ちするカルノがレヴィの意識をシャットアウトして会話が終了──
……と、いつもならばそうなる所だったのだが、今回ばかりはその後の展開が違った。

『でもカルノ……イブキが、それを望むとは……思わないの?』

静かな問い掛けに、それこそ「あり得ない」と思った。

カルノにとって、かの東洋人の少年は、清らかで神聖なものだった。
そりゃあ……『聖人君子』というには、いささか"イイ"性格をしている。(……と、カルノは思っている。)
だが、そういうことではないのだ。

「思わねェよ……"誰かの代わり"なんて、誰も望んじゃいねェんだ……」

その答えとなる呟きを、聞いたのか聞かなかったのか、それきりレヴィの『声』は聞こえてこなかった。
今度こそ、カルノは一人だった。


割とガッツリ、カル→イブ。
時間的イメージは最終章に入ってからすぐの頃くらい。
互いに相手を必要としていないようでいてお互いに補い合っている、二人の微妙な関係が結構好きです。
(初出:2017/03/05)